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​宗右衛門町夜話

​ 養成所を出て劇団へ入ってからは、昼間はお芝居の稽古などで、バイトする時間は無し。なので収入は殆ど無し。いろんなアルバイトも細々と次から次へと続けていたが、若いうちならともかく30歳近くになってくるとだんだん面接で断られる事が多くなってきた。そうかぁ、30歳というともうアルバイトは限りなく狭き門なんだ。

 それでとうとう劇団に一時的に「休団」という事を申し出て、兎に角借金と生活を安定させるためにバイトに専念する事に決めた。時給が良かったので初めての水商売を選択。やったことがなかったが、何とかなるだろうと行き当たりばったりで宗右衛門町のとあるナイトラウンジの面接を受ける。

 年齢が30歳ということで面接のママさんが渋っていたが、何とか様子見で採用された。そのお店は夜8時から深夜の2時までのお店で、当時としては珍しい生バンドの伴奏で歌えるお店だった。その当時エーストーンという名前だった独立したてのシンセサイザーの会社のデモ演奏者だったマスターと奥さんのママ。ゴダイゴも来たことがあったなあ。女の子も席に付くがクラブではない。私にとっては初めてづくしの世界で、その前の新歌舞伎座という芸事の会社とはまた違う世界で驚く事多し。ただこの水商売の世界というのは、色と欲望がまともに出現する世界だという事だけはわかった。そして男は金と権力、女はその相手の男を選び、その男次第で運命が変わるという世界。土地柄、次から次へと新しい店が潰れては新しい店が開店する。そしてそのお店のママは殆どが雇われママ。陰には必ず金主と呼ばれる金を持った男がいる。

 新しいお店が出来た時にそのお店を潰すためにお客のふりをして訪れ、他の席のお客と揉めて喧嘩沙汰を起こしたりとかいうのは日常茶飯事。その揉め事を起こすのも頼まれたそういう事専門の人間。但し今で言う反社の人ではない。はぁー、すごい世界やなぁと内心驚くことばかりだったなぁ。

​ 私の勤めたそのラウンジへもなんかマル暴さんぽい人は何人か来てた。が、お店を気に入ってたのか普通のファッションで大人しく遊んでいた。そこでの経験でふと演歌の歌詞など拙いながら書きなぐったので今生の落書きをアップする。噴飯ものの歌詞ですヮ。(^^;)

◎そしてその後に稚拙な自由句​をいくつか書き殴ってます。

「酔いどれ子守り唄」

瘋癲堂唖然庵

 

あたしの見てきた涙の数々

唄ってあげよか子守り唄

誰のせいでもない

誰も悪くない

そんな世間の裏表

でもね・・・・

ねんねんころり ねんころや

酔ってくだまき ねんころや

 

 

あたしの見てきた女の数々

聞かせてあげよか恨み節

弱い女じゃない弱い人じゃない

叱ってみせてもまた涙

でもね・・・・

ねんねんころり ねんころや

酔って忘れろ ねんころや

 

 

あたしの見てきた男の数々

抱いて聞かそか子守り歌

夢を追いかけて夢に泣き

夢に裏切られ夢に死ぬ

でもね・・・・

ねんねんころり ねんころや

酔ってまた見る ねんころや

「ミッドナイト・エンジェル」

 

あんた私と寝たいのネ いいわ一緒に遊んであげる

いろんな言葉を飾りたて 愛だの夢だの言うけれど

青い娘じゃあるまいし 信じるなんてまさかのさかサ

そんな事ァどうでもいいじゃない

いいわあんたと寝てあげる

 

あんたがどんな人間か いいよウダウダ云わなくても

いろんな言葉で飾るけど 話す尻から泡になる

抱き合ってる時のあんたが あんたの身体が本物サ

そんな事ァどうでもいいけどサ

今この時だけは嘘じゃない

あんたホントにいい人よ

 

あんた芝居がうまいんだって あんた口説きの名人だって

あたしを抱いてる今の顔 一度あんたに見せたいわ

きれいな顔よ本当さ あんた今だけオネスティ

この一瞬だけのあんたの真実 哀しいくらい真実さ

 

あたしの中で蠢いている あんたの身体はあんたの本音

この時だけしか晒せない 哀しいくらいのあんたの真

今まで生きて一番の あんたがほんとに一番の

愛しい人と思ってしまう

 

ああそうそうして欲しい ああ 気持ちいい

もっともっともっともっと

食べ尽くしたいあんたの身体 あんたのすべて

めちゃめちゃにしてあたしの身体

どうなったってへっちゃらサ

ヤケで生きてる私だから

この一瞬だけが この一瞬だけが あたしの人生

 

あんたお願い 最後の願いサ

タバコ消す前に

消えちまえ

バカヤロー

「ラブ・メッセージ」

 

父さん母さんごめんなさい こんな暮らし泡沫と

強がり云っても淋しい

私は元気何とか生きてる いろいろ悩みはあるけれど

何とか生きてる心配しないで

伝える言葉の虚しさは ネオンの海に沈んでく

 

父さん母さんごめんなさい こんな暮らしつゆ知らず

今でも愛してくれている

私は平気めげずに生きてる そのうちきっといい人が

できたと話に行くつもり

伝える陰に哀しみが 私の心に降り積もる

 

叱言とともに届いた荷物 あふれる愛が詰まった電話

あれもこれも私だけに 私だけへの心の言葉

ラブ・メッセージ

ああ ああ ああ ああ

「炎歌」

 

何も出来ない 何も出来ない

あなたのために

何も見えない 何も聞こえない

貴方のほかに

もっと賢い女であれば

もっと強い女であれば

それがそれが口惜しい

 

抑えきれない 静められない

胸の炎 紅蓮の炎

いっそ いっそ

燃えて燃えて燃えて燃え尽きよ

もう帰れる場所はない

 

ふと気づけば楽しそうな家族連れ

ふと思わずそこに私の影を夢見た

もっと優しい女であれば

もっと強い女であれば

それがそれが口惜しい

 

抑えきれない静められない

胸の炎 紅蓮の炎

燃えて燃えて燃えて燃えて心を焼き尽くせ

もう帰れる場所はない

 

あなたあなた死にたいくらい好きでした

あなたあなた少しくらいは少しくらいは好きでしたか

 

抜け殻のまま抜け殻のままこの街を出ます

サ・ヨ・ナ・ラ

自由律

 

親父の人生は何だったのかとおおう顔に我が手重なる

父の人生顔おおう手に我が身の涙

 

台風告げる窓ガラスに叩きつけよ我が雨粒

 

叩きつける雨に我が身さらす

 

窓揺らす雨  我が身を  ゆらす

 

人の子の  優しさに  また涙

 

くだらぬ喧騒の中の杯  またゆらり

 

いきり立つ杯の中に 涙一滴

 

待てしばし  どうともすればいいじゃないか

 

振返れば  寝汗びっしょり  我が枕

 

ああ夢かと  濡れた枕が  今を告げる

 

淋しい夜の  小憎らしい奴からの電話

 

淋しさに負けて  くだまく暖簾酒

 

青二才  50年経て  まだ青二才

 

時を経て  今知りし初恋

 

老いて今 初めて知りし 幼き恋

らくがき帖

「人生‥」

生きてることは かなしいね

むかしだれかが つぶやいていた

何を弱音を吐くんだと

つっぱる若さが今はない

人はゆく 人は歩き 人はみなやさしかった

ああ 人生ってやつは
ああ 人生ってやつは


愛することは かなしいね

むかしだれかが 泣いていた

何を未練と耳を貸さず

生きてたころが青春だった

人は去り 人はふれあい 人はみなさびしかった

ああ 人生ってやつは
ああ 人生ってやつは

傷つくことが多すぎて けんかする気も消え失せた

何をめそめそ弱気なと 思えど時は過ぎゆくばかり

人は泣き 人は笑い 人はみなそれでも人はみな
生きている




「神になりたい」

神になりたい

神になりたい

おお ブッダよジーザスよ

あなた達は矛盾が多すぎる

あなたがたは神の使徒ではないのか

おお 神よ 真の神よ

私を導きたまえ

神は人間のための神なのか

それとも‥‥

ああ、己れのためだけに生きることができれば

どれほど楽か

それは私の法律になるのだから

だがしかし

己れのために生きることが

人間の欲望と本能の為すままに生きることが

真の人間らしさと思ってた若かりし時代頃

その私がなぜに今ごろ

世間で言う安っぽい理屈にこだわるのか

知の無知、無知の知、

真実はだれにもわからない

真実と真理は違うのだ

私は真実と真理を取違えているのかもしれない

もし私の前に真の神が降りたもうたなら

私はあなたの下僕となろう

おお神よ

私の神よ

私の真理よ

いつになれば降誕なさるのか

それまで、あなたの降誕なさるまで

私は迷わなくてはならない

いつまで待てば‥

いつまで苦しまなくてはならないのか

ああ…


(1983.1.8)

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